この木 なんの木

森の奥から時々記事が届きます。

月ノ美兎さんと『好き』の力

 

 前回の記事(http://totota-k.hatenablog.com/entry/2018/05/27/105436)から約一か月が経ちました。

 

 僕は相変わらずVTuberを追いかけています。VTuberの世界はたった1か月の間にも目まぐるしく移り変わり、本当に濃い1か月間となりました。VTuberを知ってから、1日はとてつもなく早く過ぎていったにも拘らず、ものすごく凝縮されていました。僕はリアルに生きる人間なので当たり前のことですが、その全てを体験することはできませんでしたし、仮にどんな人間であったとしてもこのVTuberという世界の全容を知ることはできないでしょう。
 前回の記事ではVTuber全体のことを評して『文化』と言っていましたが、今は『世界』と形容するのが適切なことのように思われます。というのもVTuber界隈で段々と可視化されてきたのが、VTuber同士の交流です。単純な交流、という意味でのコラボやお仕事というのは以前からあったのですが、段々とコミュニティが形成され、その中で関係性や物語が生まれていっているのは非常に有機的で面白いことです。今、僕は一つの世界の創造に立ち会っているような感覚を常に覚えています。
 
 VTuberの世界は、個人的に『群像劇』という言葉が一番当てはまるように感じます。様々なVTuberたちが織り成す、たくさんの物語たち。その中で視聴者たちは限られた時間と画面の中で、お気に入りのVTuberを見つけ、一期一会の配信とそこから生み出される関係性を切り取っていく。僕も勿論、そういった楽しみ方をしてる一人です。というか、先ほど言ったように全てを追いかけることは最早不可能なので、ある程度(あるいはほとんど)、取捨選択をして追いかけなければならない程、VTuberの世界は広がりを見せています。
 ただこれだけは断言できます。僕たちはどのVTuberを追いかけてもいい。そこには必ずドラマがあって、人と人の繋がりがあって、そして僕たち自身の能動的な働きかけが存在しています。この働きかけは僕たちがこの世界の要素として存在することの他ならぬ証明であり、同時に僕たちが責任のあるバーチャルな存在として確立されていることを表していると思います。VTuberの世界では普段意識しない僕たちの行動の影響力を肌で感じることができます。そのままバーチャルな世界を創造し、時には破壊することもできるのだということを実感できます。
 
 僕が今、一番熱心に追いかけているのは『にじさんじ』です。
 元々が一つのグループとして誕生した彼らは、僕の感じる『群像劇』の最たるものです。当初は強い個性たちが集まって、それぞれがそれぞれの得意とする分野、興味関心の赴くままに行動していましたが(そのスタンスは根本として今も変わっていません)、最近ではオン、オフ問わず、数多くのコラボが行われており、Twitterを主体とするSNSでとても密接なやり取りが行われています。人数に比例して配信頻度が非常に高く、僕だけでなくにじさんじを追いかけている人は、にじさんじにかかりきりになってしまうのではないでしょうか。そのためさらに、にじさんじの中でも細分化して、特定の人を追いかける形──言うなれば、アイドルものソシャゲにおける推しや担当みたいなものが生まれてきてしまうのも頷ける気がします。
 

 僕はそんなにじさんじの中でも委員長こと『月ノ美兎』さんが大好きです。すっかりファンになってしまいました。
 彼女が出始めた時は「なんかおもしれー奴が出てきたな」という程度でした。当時は動画主体のスタイルが一般的でしたので、僕も同様に動画主体のVTuberを追いかけており、早い段階で生放送を始めた月ノ美兎さんを追いかけることはあまり考えていませんでした。
 しかし、僕はあれよあれよという間に彼女の魅力に気が付いていきます。よどみないトーク、鋭いワードセンス、抜群の企画力、豊富なサブカル知識……誰しもが『こんなオタク友達欲しかった』と思わせるような、聴いているだけで楽しくなってしまうような存在感があります。

 

 彼女の一番の魅力に気が付いたのはつい最近のことです。
 月ノ美兎さんは何か自分の好きなものを語る時、とても嬉しそうに、とても楽しそうに語ります。「これ大好きだったんですよ~」と懐かしそうに語ったり、「こんなことをやってみたい!」と語る様は僕たちをワクワクさせてくれます。そしてゲストやファンが何かを好きだと言うと、例え自分の知らない事柄であっても、興味を持って反応してくれます。彼女の一番の魅力とは『好き』に対するアンテナの高さとそれを他者に伝える能力です。


『好き』には大きな力がある。


 僕はそう信じています。『好き』がある場所には、人を引き付ける引力があり、新たな何かを生み出す創造力があり、そしてまるで宇宙のような爆発力があります。この嵐のような『好き』の中心に立った月ノ美兎という存在は、誰よりも強く、『好き』を発信し続けています。恥ずかしがらず。物怖じせず。
 アニメが好き、ゲームが好き、仕事が好き、人が好き……そういった好きを発信する媒体はTwitterを代表されるようなSNSで、今では誰でも手軽に自分自身の好きを全世界に届けることができるようになりました。そしてこの『好き』を生み出し、他者へ伝える力は皆が持っています。
 僕は常日頃から全ての人は、ある種アイドル的であると感じています。アイドルとは『好き』を力に輝きを放つ存在だと、僕は思っています。ファンからもらう『好き』と自分自身が持つ『好き』。そしてその好きを増幅させ、他人に影響力を与えられる人間──それこそがアイドルの本質ではないでしょうか。
 僕の担当アイドル(この言葉が特別な意味を持つことは、プロデューサー業を送ってこられた読者の方にはわかることだと思います)である卯月巻緒はケーキが大好きです。アイドルになった理由も『ケーキの魅力を世に発信したいから』という理由でした。そんな彼が今ではケーキと同じくらいアイドルを好きになり、ファンの前でパフォーマンスをしていることを誇らしく感じます。彼の誕生日にケーキを食べるプロデューサーやファンを見て、彼の『好き』がしっかりと他者に伝わって、行動を起こしていることを実感するととても嬉しくなります。

 

 好きなことを好きなように好きなだけ語る。これがVtuberという土壌によって生み出されたもなのかどうかはわかりません。それ以前にもあったのかもしれません。VTuberでなくても生み出せたものかもしれません。しかしそのような『場』が与えられたことが、僕が生きる時代に与えられたことがとても嬉しくてたまりません。
 VTuberの皆さんは他人の『好き』を否定しません。どんなにニッチであっても、マイノリティであっても、どんなにアブノーマルであっても、まずはそれに興味を持ってくれるように感じます。「もしかしてそれってとっても面白いことなんじゃないか?」と、知らないことにも耳を傾けてくれます。それがこのVTuberの多種多様さ、爆発的な増加を生んだのではないでしょうか。
 そしてこの場こそが月ノ美兎さんというアイドルを見出し、育て、今なお輝かせている。今後VTuberという世界には良いことも悪いことも、色々なことがあると思います。捉え方や切り取り方は一様ではなく、僕はいつか悪い人になってしまうかもしれません……いや、既にそうであるかも。それでも、僕の中に『好き』があれば、そしてVTuverとVTuberを好きな人々が、『好き』だと叫び続ければ、どんな難しい問題が起こっても大丈夫だと信じています。
 何というか、僕はとても大げさで一辺倒な人間なので、こうやって『人』だとか『世界』だとか、すごく大きな主語で語ってしまいますが、でもこれはとても個人的な内容です。正直に言ってしまえば、これは『自分語り』であると言ってしまっていい。でも僕はアイドルを好きだと言い、にじさんじを好きだと言い、月ノ美兎さんを好きだと言い、人間を好きだと言い、そしてやっと最後に自分自身を好きだと言えたような気がするのです。そして月ノ美兎さんと僕の問題でありながら、これはどんな人にも共通することではないのか、とも感じています。
 

 僕は月ノ美兎さんのファンです。彼女のいる世界や所属するグループが大好きです。彼女の好きなものを好きになりたいと思うし、彼女の好きな人のことを知りたいと思うし、彼女がもっと色々なことを好きになってくれると幸せです。月ノ美兎さんには感謝しています。自分自身の『好き』が大きな力を持っていること、そしてそれを発信することが素晴らしいことであることだと改めて再確認させてくれました。
 僕はオタクです。オタクは皆、好きな何かを摂取して生きています。その何かは千差万別で、それでも誰かに否定できるものではありません。何かを好きであるというのは、それ自身が不可侵の事柄で、無から有を生み出す力です。僕は誰かに自分を話すのが好きなのと同じくらい、誰かが好きなことについて話すのを聴いているのが好きです。その人のことが好きになれそうな気がするから。
 

 僕は自らの『好き』に一生懸命な月ノ美兎さんが好きです。


 これを読んでいる皆さんは今、何が『好き』ですか?