この木 なんの木

森の奥から時々記事が届きます。

オタク、筋トレをしよう

 

 こんにちは。
 ちょっと今回はVtuberには関係のない記事になってしまいました。


 突然ですが、皆さん『筋トレ』に興味はありませんか?
 僕は筋トレが趣味です。学生時代から含めると(中断の時期もありましたが)、10年以上続けています。『スポーツ競技のための筋トレ』から『ボディメイクのための筋トレ』ということを始めたのはつい最近ですが(個人的には僕自身はその分野においてはビギナーであると思っています)、やればやるほど「これはオタク向きのスポーツだ」と確信するようになりました。
 ウェイトトレーニング、フィットネス、ボディメイク……様々な呼び名がありますが、ざっくりひっくるめて『筋トレ』です。負荷をかけ筋肉の伸展と収縮を行い、筋力を伸ばしたり、筋肉を大きくしたりする。最近ではダイエットのために取り入れることが多いと聞きます。目的は様々ですが、筋トレは近年需要が伸びており、青少年から高齢者まで、一生涯取り組めるスポーツとして注目されています。
 僕が、僕を含めたオタクたちに筋トレを勧めるのは、いくつかの理由があります。その理由はまさしく僕がハマった理由そのものであり、僕と似たような『オタク気質』を持つ人には必ずあてはまることのように思われます。
 


 ※今回の記事で取り扱う『筋トレ』という言葉は、どちらかと言えば昨今において『ボディメイク』という言葉で表されるものです。本来『ボディメイク』の中に筋トレが含まれているのですが、特にここでは、「それぞれのライフスタイルに合わせた運動、食事、睡眠などの身体に関するアプローチ」という意味合いで使わせていただきます。非常にたくさんの意味を含んだ言葉なので、まずは共通の認識を持つことと、筋トレという言葉が一般的に使いやすいので事前にその言葉を多用させてもらうことをあらかじめ記しておきます。

 

①やりこみ要素がすごい

 筋トレはすさまじく奥が深い世界です。やってもやっても足りないし、やればやるほど良くなるというわけでもない。いざできたと思っても新たな発見があるし、どこまで行っても人は成長し続けるということを実感できます。
 筋トレはソシャゲに似ています。ガチャのないソシャゲ。特に昨今の、時間をかければかけるほど強くなれるタイプのソシャゲに似ています。
 ソーシャルゲーム『筋トレ』はログインボーナスが非常に強いゲームです。毎日しっかりログインして、スタミナを消費し、ミッションをこなすことで、確実にキャラクター(筋肉)は強くなります。ただ課金要素が薄いので、しっかり休養期間も取る必要があります。スタミナを回復させるようなアイテムはありますが、高価ですし、食事と睡眠という自然回復に勝るプレイングはありません。
 筋肉擬人化ソシャゲが既に存在するかわかりませんが、なんだか『推し』のようなものが生まれたりもします。得意な種目とか好きな部位ということになりますが、例えば僕だと脚のトレーニング、特に大腿部のトレーニングが好きです。元々ラグビーをやっていたのもありますが、スクワットが大好きで、仮にソシャゲになったら大腿四頭筋やハムストリングをパーティのリーダーに据えると思います。

 話が逸れました。
 ただこのソシャゲにも課金要素が少なからずあり、それが器具とサプリメントです。実はオタクにとって「コンテンツにお金をかけられる」というのは、幸せなことであり、そして必要なことです。勿論無駄な出費はない方がいいのですが、自分がしっかりとお金をかけたという実感が得られるのは、何かを愛する上で非常に重要であったりします。
 器具については一度揃えてしまえば長く使えるものなので今回は割愛させていただきますが、サプリメントについては本当にいくらでもお金をかけられるので、一種のやりこみ要素と言えます。プロテイン、BCAA、クレアチン、MVM、フィッシュオイル……多種多様なサプリメントがあり、その中から自分の身体に必要なもの、フィットするものを選ぶ作業は完全にRPGにおける装備選びです。
 ステータスの上昇値が見えるわけではありません。特別な効果が付与されるわけではありません。ただ言えるのは、僕たちは、「僕たちが口から摂取したもので出来ている」ということです。
 君だけの最高のサプリメントを装備してトレーニングというダンジョンに挑戦しよう!


②同好の士が集まりやすい

 トレーニングジムという場所があります。馴染みのない方にとっては、ゴリラやクマのような筋骨隆々の男たちが汗にまみれてガッシャンガッシャンとやっている場所、というイメージかもしれません。まぁあながち間違いでもないのですが、個人的にはトレーニングジムという場所はサークルの部室とかに近いような気がします。オタクにも様々なタイプがいますが、その多くは基本的には誰かに自分の好きなことについて話すのが大好きな人たちで、あるいは誰かが自分の好きなことについて語ってるのを聞くのが好きな人たちです。そしてそういった好きが集まる『場』が好きな人が多いです。
 これは今現在僕がハマっているVtuberやアイドルという界隈と似ています。そこには筋トレを好きな人しかいません。目的や目標は様々ですが、そこに集う人々の根幹とは『筋トレが好き』というだけです。ダイエット目的の人なんかはやりたくないけど嫌々やっている、ということもあるかもしれませんが、会員制のジムに通ってバーベルなんかを担いでいる人というのは根本的に筋トレ自体が好きな人でしょう。
 ジムにもいろいろな形態があり、公営のものや企業の運営するもの、パーソナルのジムといったものがあります。ただそこには例外なく筋トレの魅力に取りつかれた人たちがいて、いわばその人たちは皆、「筋トレオタク」です。毎日筋トレのことばかりを考えています。始めたばかりの人は軽い重さで、上級者は重いウェイトで、それぞれがそれぞれに思い描く肉体に向かってひたすらにトレーニングに打ち込みます。当然話の多くはトレーニングや食事の話になるし、『分かっている』人たちなので言語的な壁がありません。筋トレという共通言語を持てば、ゴリラとも会話できます。
 交流をメインにするオタクにはうってつけの場所と言えます。


③最終的には個人的な『趣味』であること

 「同好の士が集まりやすい」ということで交流にうってつけであると前述しましたが、ただこの筋トレというコンテンツは最終的に個人的な戦いです。ぶっちゃけ自己満足の世界です。ボディビルディングで生計を立てていたり、コンテストに出場して上位入賞を狙うような場合では違うかもしれませんが、あくまで趣味の世界です。
 かなりボディメイクとかフィットネスというものは宗教的だと感じます。絶対の答えはありません。個人個人の身体という、それぞれに全く異なったものを基盤としているため、それぞれにあったトレーニング、食事、ライフスタイルがあります。また理論も日進月歩で、昨日まで支持されていた説が、今日になって全く間違いであったと言われたりします。人体という領域は未だ解明されていない秘境であり、今日の科学技術においてもわからないことだらけです。
 一方で、肉体改造というのは非常に科学的です。体重の増減は完全にカロリーの収支で管理できますし、人体の構造というのはシステマティックに作られており、思うように動かすには関節や筋繊維についての深い知識が必要です。僕たちは水とタンパク質でできていて、それらをコントロールすることが体重や体型管理の基本となります。
 結局、最終的には自分が満足できるように信じるものを続けるしかありません。生活に支障の出ないように、理想の肉体を求める作業は農業に似ています。肉体が畑。バーベルは鍬、ダンベルは鋤です。筋肉という野菜は毎日の作業(トレーニング)と水や肥料(食事)によってすくすくと育っていきます。それを最後に味わって美味しいと感じるかどうかは自分次第です。毎日、美味しくなれよと願いながらバーベルを持ち上げるしかありません。
 宗教と科学、祈りと理論の狭間で、僕たちトレーニー(筋トレを行う人の総称)は毎日を過ごします。これは驚くくらい敬虔で、なおかつストイックな生活です。自分が満足できるまでお金や時間をかけることができるし、自分がやめたいと思ったらいつ辞めてもいい。別に誰としゃべらなくてもトレーニングはできるし、もし話したいと思ったら話したくてたまらない人たちがたくさんいます。
 オタクはわからない人から見たら「なんでそんなことに時間やお金をかけられるの?」と言われるような人種です。それぞれに大切にしたい大好きなものがあって、それに対して情熱を傾けられる。その情熱を受け止めるだけの熱量を、筋トレは持っています。


④それは一種の創作活動である

 また、筋トレは絵を描くことや文章を書くことにも似ています。実際、ボディビルディングというのは肉体を使った『彫刻』であり、土を肉に、石を骨に変えただけにすぎません。僕たちは『1㎝腕を太くする』という作業に半年を使います。絵師さんであれば1分で、物書きであれば3秒でできることに半年を要します。肉体というキャンパスは、一つのラインを描くのにもとても苦労します。筋肉という本は、1行を書くのにもとても時間がかかります。
 肉体改造の基本的な形というのは、「筋肉を増やし、脂肪を減らす」ことです。話すと長くなるので端的に記述しますが、基本的に同時期に「筋肉を増やしながら、脂肪を減らす」ということは非常に困難で、ほぼ不可能かと思われます。砂の彫刻のように、まずは土を盛って大きくし、そこから余分な部分(脂肪)をそぎ落とすという作業が必要です。
 「体育会系」という言葉は良くも悪くもトレーニーたちを端的に表しすぎています。トレーニングの目的というのはやはり肉体を変えること、そしてその目標とする肉体というのはどこかのビルダーの模写であったり、近くの人の体型であったり、何かのキャラクター造形であったりします。確かにその根本は運動ですが、その目的とするところは個々人の持つ『美』の追及であり、そこには歴史もあれば流行もあります。価値観や美的センスによって目指す絵柄、表現は変わっていき、そこに行くまでのアプローチは千差万別です。
 そういった試行錯誤を愛する人、あるいはどのような形であれ何かを作るのが好きな人は是非筋トレをやっていただきたい。トレーニングは単なる「運動」とは一線を画すものです。トレーニングでは常に昨日よりも向上していかなければなりません。同じ重量、同じ角度、同じ時間でトレーニングすることは単なる運動に過ぎず、筋肉の成長は見られません。僕たちの人生と同じように、様々な刺激や体験を受けることによって筋肉は成長していきます。
 

⑤対外的に許容される趣味になりうる

 最後にこれはかなり個人的な意見で、かつ副産物であるとも言えます。
 とかくオタク趣味というのは理解されないことが多く、場合によっては忌避されることもあるかもしれません。「休日何してるの?」という質問はあまりされたいものではないという方も多いでしょう。
 しかし「筋トレ」というのは広く一般社会に開かれたもので、「休日は筋トレに行っています」と言おうものなら、やれダイエットだ、肉体改造だと興味を持って聞いてくれます。オタクにとって好きなことを存分に話せる、というのは非常に幸せなことです。ましてや相手が興味関心をもって聞いてくれたら、これ以上幸福なことはないでしょう。
 僕としては、自分のためではなくて対外的な理由で筋トレを始めるのも全く問題ないと思います。何かを始める理由というのは何でも構いません。モテたいとか、かっこよくなりたいとか、マッチョになりたいとか、好きな子に見直されたいとか、何でもいい。僕が筋トレをする理由は「ゴリラになりたい」ですしね(ある程度筋トレを続けていると、男性は人から猿への帰属本能を得ることがあります)
 また、良いトレーニングをするには健康でなければならず、健康になるには食事と運動に気を遣わざるを得ません。そして食事と運動に気を遣うと、必ず人は痩せます。あるいは健康的に太ります。健康的な人は明るく社交的に見えます。自分の好きなことに打ち込んでいるだけで、他者から評価され、見た目が良くなるというのは一石二鳥どころの騒ぎではありません。元々僕としても他者からの評価や見た目というのは気にしていませんでしたが、そうやって評価されるとやはりうれしいもので、ラッキーだなと思ってしまいます。

 

 以上のように、筋トレは多様な側面を持った趣味です。やっていると本当に内省的で、自分自身を一から見つめ直す作業です。自分の身体がどのように動いて、自分が食べているものはどういった栄養素を含んでいて、自分の精神がどう変化していくかを追っていく学問です。
 何か僕が自分のハマっているものに関して語ろうとすると、いつも「宗教勧誘みたいだな」と言われるのですが、そうなってしまうのも当然で、究極的に言えば僕が何かを好きになるときというのは、どこか「僕が僕自身を好きになる」ための過程であるように思えるのです。そしてそれは自己肯定とか自己満足とか、宗教が持つ救済の一つの形であるため、僕としては「幸せになれる」とか「人生が輝く」とかいった言葉を散りばめざるを得ないのです。
 運動をするにあたって受動的な運動というのは、単なる仕事です。作業的に行う運動ほど苦痛なことはありません。運動が嫌いな人というのは、大抵の場合、この受け身の運動を強いられてきたからではないでしょうか?自らの意思で行う能動的なトレーニングは、そういった学校や治療のための運動とは一線を画します。まさに自身の思うままに体を動かそうとする試み、思い描くように肉体を変えていく試みは、情熱を捧げるに値するものです。
 
 そして情熱を持って何かに打ち込めるオタクという人種にとって、筋トレは最高の趣味だと言えます。